修学旅行の夜。
思春期真っ盛りの仲良し4人組の間では、せーので好きな娘を言い合うという恒例のイベントが行われていた。
「いいか? 全員同時だぞ? せーので言うんだぞ?」
「……いくぞ、せーの!」
田中「山本さん!」
一同『……』
田中は裏切られた。
まさか本当に言うヤツがいると思わなかった3人はしばらく田中をイジり続け、観念した田中はそれまでのエピソードをポツポツと話し始めた。席が隣になっても寝たフリをしてしまったこと、帰り道で後を尾けていたらお巡りさんに補導されてしまったこと。
山本さんへの一途な思い、純粋な気持ち、そして田中のあまりのヘタレさに3人は心打たれ、全員で田中の恋を応援することにした。
席替えがあればこっそりクジを交換し山本さんの隣の席に座らせ、クラス会では2人きりになれるよう取り計らい、幾度となくチャンスを作った。
それでも田中はダメだった。どうしてもあと1歩を踏み出せない。
純粋で不器用な田中を、3人は根気強く応援した。
そんなある日の朝、事件は起こった。
教室の黒板に『田中×山本』の相合い傘が書かれていたのだ。
田中の恋を知っているのは3人だけのはずだが、その真剣さを知っている彼等がこんなことするはずがない。
状況が飲み込めずにいる田中を他所に、周りからは声が聞こえてくる。
「田中、山本のこと好きやねんて」
いったい誰が、なぜこんなことを?